株式会社榎本事務所

イラスト創作のためのアイデア・コンセプトの考え方

イラスト創作のためのアイデア・コンセプトの考え方
発行
2020.03
著者
榎本 秋、鳥居 彩音,、榎本事務所
出版社
秀和システム

3/3に秀和システムより「イラスト創作のためのアイデア・コンセプトの考え方」が発売されました。

 1枚のカラーイラストを制作する際に

・どんなことを考えればいいのか
・どんな構図がいいのか
・何色で塗るのいいのか


 など、一連の流れをメイキング形式で紹介。各工程において押さえたいポイントを解説しています。

 本記事では15本収録されているメイキングから1本をご紹介します!

illustration1:キャラクター単体のかっこいいイラスト

キャラクターラフ

〇キャラクター設定
 男性アイドル、17 歳。茶色の短髪。
 男子高校生3人で組まれた、明るく元気なユニットのセンターでイメージ
 カラーは赤色(他2 人は黄色と青)。
 少しおっちょこちょいだが、いつでも全力で前向きな性格。
 歌やダンスはまだ発展途上だが、人を惹きつけるようなよく通る声が持ち味。
 国民的アイドルと呼ばれている男性3人組のユニットのセンターのアイドルに憧れて地方から上京し、彼らと同じ事務所に所属した。

Point アイドルはイメージカラーを決めよう!       
 かっこいいイラストとなれば、かっこいいキャラクターを考えるのが定石だろう。または、普段はそこまでかっこよくないキャラクターが、頑張ったり勇気を出したりする場面を描き、かっこいいと思わせるのでも良い。     
 ちょっと変わった見せ方にはなるが、“キャラクター自身はかっこいいと思っているが、周囲やそのイラストを見る人にとっては「ただのかっこつけ」だったり「ナルシスト」にしか思えない”というひょうきんなイラストもアリかもしれない。            
 さて、今回イラストレーターが作ったキャラクターはアイドル。かっこいいシーンが作りやすいキャラクターだ。                  
 アイドルといえば最近はグループ活動が主になっている。皆さんがアイドルを描く際もグループを想定していいだろう。その時大事になるのがカラーリングだ。実際のアイドルも戦隊ヒーローのようにイメージカラーを持っていることが多い。
 なので、キャラクターそれぞれに色を振り分け、その色の印象に近い性格を考えてみよう。今回のキャラクターは赤なので明るい人柄になっている。ブルーならクール、グリーンなら優しいといった具合だ。            
 もちろんギャップを狙って違う性格を当てはめても良い。クールなレッドだったらどんなキャラクターデザインになるだろうか。同じ赤でもやや暗めの赤色を使うなどしてみてもいいかもしれない。

まずはキャラクターラフ。キャラクターデザインだけでなく、設定もしっかり考えます。 
この設定によってキャラクターのポーズや表情が固まっていくからです。

〇イラストにするシチュエーション
 ステージでのライブ中のシーン。
 マイクを持って歌いながら、ファンの声援に笑顔でこたえているところ。

〇どんな構図にするか

・背景
 キャラクターの後ろにキャラクターがアップになった大きなスクリーンとスポットライトの光。
 手前にファンが持っているペンライト。

・キャラクターのポーズ、表情など
 左手にマイクを持ち、もう片方の手をファンのいる方に伸ばしている。
 ライブが楽しくて仕方ない、といった笑顔で歌っている。

Point
 アイドルの見せ場と言えばやはりライブ。歌ったり踊ったりすればキャラクターの動きも見せやすい。キャラクターによってファンへの対応は変わるだろう。今回のように笑ったり、ファンを悩殺しようとウインクするのもいいかもしれない。

コラム カメラ目線

 書店でイラスト付きの書籍を見てほしい(一番手っ取り早いのはマンガかライトノベルのコーナー)。表紙のキャラクターたちと目が合うことがほとんどではないだろうか。特にキャラクターが1人でアップの構図だとより顕著だ。これをカメラ目線という。      
 なぜカメラ目線がいいのか。まさに目を合わせるためである。     
 書店には多くの書籍が並んでおり、その中から選んでもらわなければならない。目が合えば一度はそのイラストをはっきりと認識させることができる。そこで興味を持ってもらえれば勝ちだ。           
 書籍の表紙でなくても、イラスト全般においてカメラ目線はポピュラーな手法となっている。イラストに印象を持たせたいとき、まずはカメラ目線にしてみよう。キャラクターが複数いる場合は最も目立たせたいキャラクターをカメラ目線にし、他はメインキャラクターの方を見るという構図も効果的だ。

いきなりラフを描くのではなく、どんなイラストにするかあらかじめ考えます。
そうでないと「自分が描きたいと思っているイラスト」がはっきりと見えず、
ボケた構図になってしまうからです。
コラムではイラストを描く際に役立つ知識を紹介しています。

ラフ案①

全身が見えるようにやや引きの構図。その代わり、表情がよくわかるようにバックにモニターを設置した。

ラフ案②

こちらはキャラクターの魅力をより強く見せるべく、顔をアップにした。ただ、そのせいでここがどこなのかやや分かりにくくなっている。

ラフ案③

斜めからの構図。真正面からより奥行きを感じやすく、立体的に見せやすい。キャラクターの動きも躍動感がアップしている。

★決定ラフ

どのような修正をしたか
 ラフ案を3つ出してもらい、イラストレーターには以下の要望を出した。

1:キャラクターを目立たせたい
2:もっと躍動感を出したい
3:カメラ目線にしたい


 1つ目を叶えるならラフ案②がいいだろう。アップでキャラクターがよく目立っている。ただ、掲載ページにも書いた通り、場所が分かりにくくなるのが難点だ。2つ目の躍動感についてはラフ案③が適役だ。舞台装置も見えているし、ほどほどにアップになっている。しかし、カメラ目線が達成できない。
 そこで、ラフ案①である。こちらを少し修正し、要望をすべてクリアすることにした。
まずはキャラクターをどう目立たせるか。これは修正前よりもややアップにしてもらった。微々たる差ではあるが、キャラクターの顔がはっきりと見えるようになった。同時にカメラ目線もより分かるようになっている。

動きを出そう
 次に躍動感だが、ここがもっとも重要なポイント。実はラフ案①も背景の階段のおかげで奥行き感は出せている。けれど躍動感はやや足りない。そこで、「ナナメ」と「服の活用」だ。ほんの少し斜めからの構図にすることで、イラストに動きが生まれる。これはラフ案①と決定ラフを見比べてみると分かりやすい。
 これにプラス、キャラクターデザインの段階ではなかったロングジャケットを追加した。裾をはためかすことによってイラストに更に動きが生まれている。イラストは静止画になるが、このアイドルは今、歌って踊っている。
 つまり、キャラクターが着ている衣服にも動きが生じて当然なのだ。これは大抵のイラストに言える。外であれば風が吹いて髪や軽い素材の布ならなびくだろう。その様を描けば動きがつき、躍動感が生まれる。
 最後にアイドルをいえば「キラキラ」のイメージを持っている人も少なくない。なので、キラキラの演出も入れてみた。これでより一層華やかになるだろう。

ラフは複数枚描きます。1枚だけ描いて修正していくより、複数からより良いものを選び、
修正していく方がいいものが仕上がるからです。構図やキャラクターのポーズを模索します。

カラーラフ

着色の際はいきなり塗り始めるのではなく、どんな色を置くか配置してみよう。
キャラクターが赤系統なので階段は別の色でバランスを取っている。

完成イラスト

設定やシチュエーションを考える意味
 まずは1つ目のイラスト、いかがだっただろうか。キャラクターの設定やシチュエーションまで考えてイラストを描いたことがなかった方にとっては「そこまで手間をかける必要がある?」と思ったかもしれない。
 しかし、キャラクターデザインだけでなく設定も考えておくと、今回のイラストで言えば彼にとってアイドルがどのような仕事であるのか、思い入れを表情などで表すことができる。もしも「アイドルの仕事はあくまで金を稼ぐ手段でしかなく、ファンも金なる木だと思っている」設定だとしたら、今回のイラストような表情にはならなかっただろう。
 シチュエーションに関しても、キャラクターの設定によってはそぐわないことがあるかもしれない。一方で「このキャラクターをより魅力的に見せるシチュエーションはなんだろう?」とじっくり考えることによって、描き始める前からイラストのクオリティを上げることができる。
 そして、本書のように同じシチュエーションでも違う構図のパターンでラフをいくつか描き、どれが一番良いイラストになるのか選出することでさらなるクオリティ向上につながる。特に事前準備をせずに描き始めるのと違い、イラストの質を上げるためのチェックのタイミングがいくつもあるのだ。

画面を彩る小物類

 今回のイラストはアイドルのライブということで、下部にはペンライトがあり、画面全体に紙吹雪が舞っている。なくてもイラストとしては成立するのだが、画面を華やかにするには大事な要素だとも言える。
 衣装が決まっているキャラクターは使える色が限られてくるので、ペンライトや紙吹雪で別の色を差し込んであげることでカラフルにすることができるのだ。空いてしまったスペースを埋める手段にもなりえるので、不自然ではない小物配置も検討してみよう。

「かっこいいイラスト」他のシチュエーション例

・スポーツで得点を入れる
・襲われている人を助ける
・戦隊ヒーローの決めポーズ

最後に全体的な解説を掲載。しっかり考えてから描くことの意義を見出していただけたら嬉しいです。
同じお題で違うシチュエーションで描く際の例示もあります。

 15本のメイキングはそれぞれ押さえるポイントに違いを見せて紹介しています。

・キャラクター重視
・背景重視
・シチュエーション重視


 といった具合です。
 なにを一番見せたいかによって最適な構図は変わります。「〇〇な感じのイラスト描こう」といったぼんやりとしたイメージでは最適な構図にはなかなか行きつきません。
 はじめに「自分はどんなイラスト描きたいか、なにを見せたいのか」としっかり考える必要があります。
 本書はその「考え」の助力になる1冊です。
 ぜひ残りの14本のメイキングもチェックしてみてください!

 

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